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ですから感染症とか癌とか老人ケアとかというようなある制限された領域においてフィジカルエグザミネーションをするのは進んでいくのでしょうが。看護婦で教える人がないのでドクターが教えざるをえない、ところがドクターはだんだんフィジカルエグザミネーションをしなくなってきているのです。聖路加でもフィジカルエグザミネーションが大切だとは言うのですが、エコーとか心電図とかいろいろなスキャンに頼ってしまい、聴診器で心臓の音を聴くなどということは非常に下手になりました。
ライフ・プランニング・センターではドクター、ナースのためのフィジカルエグザミネーションのコースを開いておりますから、医学部の学生が正規の授業でくるのです。
Andrew 英国では心臓の雑音をグレード1,2,3,4と分けています。グレード4は非常に大きい音だから聴診器なんていらない。グレード1は小さいから専門の心臓医でないと聞こえないという言い方になるのです。
私どものホスピスではフィジカルエグザミネーションができるようにナースの能力アップを大いに推奨しています。特にナースが一人で訪問看護をするというときにはフィジカルエグザミネーションができるということは大事なことです。直腸の触診がきちんとできるようにナースは皆教育されています。それができるのだったらその能力をさらに拡大して、腹部の緊張がガスによるものなのか腹水が溜まっているのかというようなことも判断できるようにする。同様に入院患者の血圧をナースはとります、訪問着議をするときに患者さんがめまいを訴える、気だるいとか倦怠というようなことを訴えたときに血圧をとる場合には賢いナースだったら寝たままと立たせたときの両方をやるだろう。ターミナルな病気を持っている患者さんだったり、かなり進行している癌の場合は低血圧になるということを皆さんご存知だと思いますし、立たせると立位性低血圧ということになるのも一つの症状です。
ナースはその役割をちょっと拡大して能力アップするだけで患者さんにとってありがたい存在になるし、ナースの自信にもつながるということだと思います。
予後判断のための情報
それではこれから正確な予後を判断していくために有用な情報の説明をしていきたいと思います。
もちろん疾病の始まった段階で診断を下すという決定がまず行われます。もう一つ癌患者の場合に重要なデシジョンポイントは、癌の再発が最初に起こった時点を判断することです。ここにお見せしたその疾病の末期の段階、つまり死にゆく段階で行われるべきデシジョンポイントです(略)。もしドクターおよびナースが正確に予後を判断することができれば、これらの決定を患者さん自らが行うことができるようになります。
まず最初に行わなければならない決定は、患者さんがどこで介護を受けるべきか、在宅なのかそれともどこか病院などの施設に入ったほうがいいのかということです。この決定をするに当たっては予後が非常に重要であり、もしもあと1週間ぐらいしかもたないであろうと思われる場合には、その患者さんがぜひ自分の家にいたいということであれば家族はかなりの努力を払っても1週間であれば何とか家で介護をしようと思うのではないでしょうか。しかしドクターが3ヵ月は大丈夫だろうとかなりの確信を持っている場合には、3ヵ月というかなり長期間ずっと在宅でケアをするのは負担が大きいという可能性もあります。患者によっては入院中に病気が悪化することもありますが、その時にその患者が自分は家で死にたいのかそれともここでいいのか、それを決めていく必要があります。
そういう場合にはできるだけ迅速に家庭に戻すかどうか判断し、在宅で看取るという場合には可能な援助がいろいろあると思いますから、それを早急に手配対応する必要があります。日野原先生が先ほどおっしゃったことですけれども、外国に家族が住んでいてぜひ最期は一緒に過ごしたいという希望を持っている方もいると思います。イギリスでもそういったケースが増えていてせめて最後の数日間あるいは数時間は患者さんと一緒にいたい、だけれどもいま自分は外国にいるのでドクターにぜひ1000ドルとか2000ドルとか航空運賃を払って日本とかあるいはアメリカからイギリスに駆けつけてやってくるわけですから、できるだけ正確に予後を判断して最期のときを患者さんと過ごして看取れるようにしてほしいという希望も出てきます。

 

 

 

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